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第4期テーマ「ローカル鉄道×地域」ひたちなか海浜鉄道株式会社インタビュー記事

if design project第4期のテーマ「ローカル鉄道×地域」のテーマオーナーとして参画いただくのは、ひたちなか海浜鉄道株式会社。

人口減少が叫ばれる昨今、鉄道やバスの廃線の話も各地で相次いでいるなか、そんな危機から奇跡的な復活を果たし、新駅「美乃浜学園」の開業や路線の延伸計画も持ち上がるローカル鉄道が「ひたちなか海浜鉄道湊線」です。ひたちなか市の勝田駅-阿字ヶ浦駅間を結ぶ1913年から運行を開始した歴史ある鉄道です。

今回は、そんなひたちなか海浜鉄道の吉田千秋代表取締役社長に、お話をお伺いいたしました。

お話をお伺いした吉田社長。グッドデザイン賞にも選ばれた沿線の史跡や特産物を取り入れた駅名標の前にて。


市民と協働し、歩んできたローカル鉄道

豊かな田園風景の中を走るひたちなか海浜鉄道。(提供:湊鐵道応援団写真部)


ひたちなか海浜鉄道は、1913年からあるとても歴史のある鉄道。日立製作所の企業城下町の1つ勝田駅から那珂湊漁港、海水浴場で有名な阿字ヶ浦などを結び、海産物や海水浴客を運ぶ路線としてにぎわっており、最盛期には年間乗客数300万人以上もの利用者があった路線でした。

しかしながら、自動車社会、人口減少の波にのまれ、2000年代にはいると、年間乗客数が最盛期の1/4の70万人にまで落ち込んでしまいました。

そういった状況のなか、当時の運営会社であった茨城交通は廃線することを決定。しかしながら、市民にとても愛されていた鉄道であったこともあり、ひたちなか市が支援を表明。市民の力も取り入れながら、存続運動が発足し、2008年に、茨城交通から鉄道部門を引き取り、ひたちなか市と茨城交通の共同出資による第3セクター方式で、ひたちなか海浜鉄道株式会社が開業しました。

お話をお伺いした吉田社長はその際に公募で社長に就任。元々、富山県の鉄道会社に勤めていた経歴の持ち主。

「ひたちなかに来て、1番驚いたのは、取っつきづらい鉄道業界と市民の皆様の距離が近いこと。ひたちなかには、鉄道の存続・発展を願う、おらが湊鐵道応援団といった市民団体を筆頭に、市民の方々との協働がとてもやりやすかったんです。元々が港町のエリアであったり、日立といった大企業が立地する場所でもあったので、ソトモノにとても寛容な地域文化が根底に根付いていたように感じました」

こうして、新しく生まれ変わったひたちなか海浜鉄道。ここから、様々な施策を行い、乗降客数を再び取り戻していきます。

「定期券の割引率アップや旅館の送迎バスをそれまで勝田駅まで出していましたが、那珂湊駅からしか出さないようにしてもらう等、市民の方々と協力しながら、ここまでやってきました。小さな積み重ねが、乗降客数が回復してきた要因だと思います」

他にも、キリンビールとのタイアップによる「ビア列車」や地元の蔵元や商工組合、ホテルなどと提携して、「日本酒列車」や「納豆列車」、「ヌーボー(ワイン)列車」など、様々なイベント列車を走らせ、単なる移動の手段としてではない、列車の価値をつくっていったそう。

過去、列車を活用し移動時間を楽しむ企画を実施


様々な取組みをしているひたちなか海浜鉄道は、最近、市内の小中学校が統合し、誕生した義務教育学校「美乃浜学園」に合わせ、2021年3月に新駅「美乃浜学園」を開業。

そして、2024年(計画)には、ネモフィラが有名でインバウンドからも人気のスポットとなっている、国営ひたち海浜公園までの延伸計画もあるということで、ローカル鉄道業界においては、注目の鉄道となっています。

そんな好調のように思える、ひたちなか海浜鉄道ですが、課題はいったいどこにあるのでしょうか?

ひたちなか市の価値を浸透させていきたい

海にも非常に近いひたちなか海浜鉄道(提供:湊鐵道応援団写真部)


「これまでは、乗降客数を増やすことを念頭に頑張ってきました。一定程度成果が出てきた今は、そこを増やすことも大事ですが、如何にこの地域が魅力的であるか?ということを浸透させていくことが必要だと思っています」

実際に、ひたちなか海浜鉄道の2km圏には、アクアワールド大洗や国営ひたち海浜公園、おさかな市場など、年間100万人を超える規模の観光客数を誇る資源が3つもあります。

また、かつては海水浴場として日本一を誇り、今ではワーケーションの取組みを促進させているなど、新しい風が吹いている阿字ヶ浦。

那珂湊で、約300年の歴史を誇る神事である市指定無形民俗文化財「みなと八朔まつり」。国指定史跡であり、約1400年前の彩色壁画のある「虎塚古墳」。タコ加工量や干し芋生産量で日本一を誇るなど、歴史や誇るべきコンテンツ、新しい動きが垣間見える地域でもあります。

ネモフィラで知られる「国営ひたち海浜公園」


 そして、ソトモノにも寛容な地域色を表す1つとして、ひたちなか海浜鉄道沿線を舞台に開催する現代アートプロジェクト「MMM(みなとメディアミュージアム」といった取組みも。慶應義塾大学や明治学院大等、東京の学生を中心とした任意団体による取組みが、2009年ごろから10年以上続いています。

こういった魅力やポテンシャルがあるひたちなか市。ソトモノと地域の程よい距離感など利点をもっと活かし、対外的にこの魅力を発信していくことで、ひたちなか市がこれまで以上に盛り上がるきっかけにしていければと吉田社長は考えていました。

if design projectに期待すること

「改めてひたちなか市は良い街だなと、元々ソトモノであった自分自身がそう思っています。しかし、その良さをまだまだ発信しきれていないことに課題を感じています。この街の良さを実際に体感し、如何に対外的にこの魅力をアピールしていけるか?身をもって体験し、こういったことを考えられる人にぜひ来ていただきたいと思っています。面白い提案であれば、ぜひ宣伝も協力したいです」

多くのコンテンツや様々な色を持った地域が連なるひたちなか海浜鉄道。実際に1駅隣に行っただけで、そこの地域の特色や魅力が全く異なることもある中で、どうこの沿線のそれぞれの地域を捉え、横軸を通していくか?そんな編集的な視点やまだ目がつけられていないキラリと光るコンテンツを見出し、新しい価値をつくっていくか、観察力・想像的な視点が求められていそうです。

吉田社長から、その先の夢も話していただきました。

「ひたちなか市は特急ひたち号で行けば、東京駅から駅でいける街です。羽田空港からJR東京駅まで直通で行く構想もあるなかで、国内外含め、もっともっと多くの方に知ってもらって、足を運んでもらうと共に、住みやすい街であることも知ってもらい、日本一住みやすい街として認知されていって欲しいと思っています。その先に、鉄道を利用される方が増えたら嬉しいです」

さまざまなポテンシャルと寛容な地域柄の中、市民と共に歩んできた、ひたちなか海浜鉄道。こういったバックグラウンドが整っているローカル鉄道において、地方での鉄道の新しい在り方や見せ方が生まれることを期待しています!

 

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【こちらの文献もぜひ読んでいただき、イメージを膨らませた上で、エントリーお待ちしています!】

出典:

①ひたちなか海浜鉄道 HP

http://www.hitachinaka-rail.co.jp/

②おらが湊鐵道応援団 HP

http://minatosen.com/

③MMM(みなとメディアミュージアム)WEBサイト

https://minato-media-museum.com/

④ひたちなか市 観光協会

http://www.hitachinaka-sa.com/